Role Model
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パートナーの職場のためにもなる
社会全体でのダイバーシティ推進を日本獣医生命科学大学
獣医学部 獣医衛生学研究室准教授 落合 和彦 氏
日本獣医生命科学大学(以下、日獣大)で、ダイバーシティ推進委員会の副委員長を拝命しています。妻は私と同じく獣医師で農林水産省に勤務、小学4年生の長男と小学1年生の長女の4人家族です。妻もフルタイム勤務のため、子どもたちが急に熱を出したりしたときなどは、比較的時間に自由の利く私のほうが対応する場面が多いです。
ダイバーシティ推進委員として思うことは、真のダイバーシティ推進は「自分の職場内にとどまらず、パートナーとその職場にも波及するもの」でなくてはならないということです。
自分の職場で、子育てや介護に携わる同僚を助けることはもちろん大切です。しかしその結果、自分の家庭に充てる時間が減り、配偶者が思うように働けないようでは、社会全体のダイバーシティ推進は実現できません。私たちが学生の頃の大学教員といえば、「家庭を顧みず教育・研究に没頭し、配偶者は家で専業主婦」というスタイルが主流でした。しかし、令和の時代にそれは通用しません。父親も家事・育児を母親と同等にこなせなければ、家庭にストレスが蓄積していきます。
周りを見渡すと、家事・育児に積極的に参加している同年代の男性教員は、教育や研究でもしっかり成果を上げている方が多いように思えます。常に突発的な事案の発生への危機感を持ち、「明日も今日と同じように仕事ができるとは限らない」という気持ちで仕事に取り組んでいるので、当然能率は上がります。トラブルが無ければ、自分に課したノルマは時間内に余裕をもって終わらせることができ、余暇を子供と過ごす時間に充てたり、研究目標への更なるチャレンジに繋げたりすることができます。その結果、心にゆとりが生まれ、同僚を手助けすることもできます。これからは特に、若い教員が研究を能率的に進められるような環境づくりには力を入れたいと思っています。
最近嬉しかったのは、勤労感謝の日に長男が「お父さん、いつもおいしいごはんをありがとう」というカードをくれたことです。家庭で料理番を拝命し、ほぼ毎食ご飯を提供している父親としては感無量でした。それでも子どもは結局母親に懐いているので、今後は家庭での地位向上を目指していきたいところです。このような私ですが、後に続く皆さんにとって何らかの形でロールモデルになれば良いなと思っています。
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研究支援員の派遣で効率アップ、
新たな視点の提供も日本医科大学
生化学・分子生物学(分子遺伝学)教室助教 笠原 優子 氏
私は、筋ジストロフィーでの細胞移植手術に向けた基幹研究をしています。幹細胞を用いて筋ジストロフィーの炎症を抑える新しい治療法です。研究者支援を受けさせていただいて、研究をサポートしてくれる支援員を派遣していただいています。
治療研究をしているのであれこれやってはみたいものの手が足りないので、せっかくの機会でもありますし、応募しました。実験が大変な時に手伝っていただけるよう、週2日フルタイムで来ていただいています。
一人でやっていると時間が限られて、夕方近くに時間的な制約が来てしまいますが、2人いると手が2倍になり、今まであきらめていたことを実現できるようになりました。協力していただけるので、仕事の効率も良くなりましたね。自分一人では気づけなかったことに対して、新しい視点を提案してもらったりするのも、とでも心強いです。
現在、小学生2人の子育て中です。家に帰ると研究から離れて、頭を切り替えて、けじめをつけないといけません。効率的に過ごすことも求められます。研究は研究、子育ては子育て。そのどちらも充実させたい。研究についてはサポート研究員を派遣していただいているおかげで、有意義な研究ができています。さらに、そのおかげで家庭では子育てに集中できるので、非常に助けていただいています。
個人的には治療研究を進めたいので、患者さんの治療に少しでも近づけるようにするのが夢です。社会に今何が求められているのかを見極めて、それを実現できるような研究者になることを目指しています。貴重な機会をいただいて良い研究環境を作っていただいているので、社会の役に立つ研究をしなければならないと思っている。
出産・育児の中でどうしてもあきらめがちなことがあると思いますが、研究に関してはあきらめないことが大切です。体力も時間も限られるので、効率的に進めないといけません。でも、子育てで大変なのは一時期です。だから負けないで、と後輩の皆さんにはいつも伝えているところです。
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医師と研究者を両立しながら続けたい
日本医科大学付属病院
女性診療科・産科助教・医員
市川 智子 氏私は産婦人科医で、周産期と生殖医療を専門にしています。周産期はお産のお手伝い、分娩や帝王切開、妊婦検診、あるいは流産してしまった場合はその手術や心のケアです。生殖医療は不妊症や不育症の方をメインに行っており、特に体外受精では採卵や移植や子宮鏡もやっています。
研究としては、大学院で流産の研究をしたので、現在は子宮筋層の血流を超音波で評価させていただいています。血流を超音波で評価する手法があまり定着していないため、特定の超音波を使って、不育症で妊娠初期の方の子宮筋層血流を評価しています。血流の良し悪しと流産との関係を評価しています。
育児サポートのおかげで精神的な安心感
子どもは5歳と9歳です。休校期間中は、上の子どもはお弁当を持って学童保育に行っています。朝は保育園に送ってから出勤し、18時15分までに迎えに行かないといけないので、それまでに急いで仕事を終わらせて迎えに行きます。その後は夕食や上の子の勉強のサポートをして、寝る時間は23時頃です。
そのような生活の中で、私は毎週1回、同じシッターさんに自宅に来ていただく育児サポートを利用させてもらっています。食事作りから掃除、子どもの習い事の送りもやってもらっています。そのおかげで私自身がやらずに済むことが増えて、精神的にも休める安心感があるので、とても助かっています。もっと多くの皆さんが使えるといいと思います。
産婦人科医としての喜び
産婦人科は他の科の中で唯一、手術中に「おめでとうございます」と言える診療科です。もちろん悲しいこともありますが、概して喜びを与えられるのでとても素晴らしいと思っています。子供達も医者という職業に興味を持ち始めています。医者は常に勉強して新しい知識を入れて、ダイレクトに患者さんに活かしていくという職業ですので、勉強への意識は常に持ってもらって、精神的な部分は一緒にいる時間の中で育んでいけたらと思っているところです。
研修医制度が変わって、産婦人科医の激務ぶりが垣間見えてしまうことで敬遠してしまう人が増えているようです。もちろん生活の質も大切ですが、それだけを考えてしまうと、初めは良くても、時間がたつにつれて本人の意思が燃え尽きてしまって、医師自体を続けるのが困難になってしまいます。まずは、自分のやりたいことを優先にして邁進すれば、他の事は後から付いてくると思います。
研究のほうも続けたいですね。医師として色々な形がありますが、大学院で研究しながら新しいことが分かる喜びも経験したので、できるだけ続けたいです。後輩にも同じような経験をしてもらいたいので、自分も指導できる立場になりたいと思います。