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研究を辞めないで続けるための支援を
日本医科大学
微生物学・免疫学教室講師 若林 あや子 氏
現在、教室で食物アレルギーや腸管炎症の研究に携わりながら、しあわせキャリア支援センターで育児期の先生方へのサポート等を行っています。
私自身は息子が中学生になり手が離れましたが、小さな子どもを育てながら研究・教育・臨床を続けていくのは大変なことです。子どもの急な発熱などにも対処しなければなりません。女性教職員だけでなく、育児期の子どもを持つ男性教職員に対しても、この一時的に大変な時期のサポートをすることは大切です。最近行いました学内アンケートでも、育児支援を必要とする教職員が男女問わず多くいることが分かりました。大学や病院の大切な業務を担うそうした若い世代の方々にさらに声を上げていただいて、具体的にできることを形にしていきたいと考えています。
研究に関して言いますと、思わぬ方向・予想していなかった結果が得られることがあります。それも研究の面白さというか醍醐味です。私自身、予想していなかった研究結果が新たな発見に繫がったこともありました。また実験中にトラブルが起こることもあります。そうなると保育園のお迎えなど決まった時間に帰れないこともありますので、フレックスや時間外勤務可能な研究補助員の配置などのサポートも充実できればいいでしょう。研究で得られる刺激や醍醐味を多くの研究者に味わっていただけるような支援ができればと思っています。
研究結果は一朝一夕では得られず、多くの時間と労力を要します。研究を途中で辞めてしまうと新たな発見に至りません。それ故、家庭の事情などで研究の継続を断念せざるを得ない研究者に寄り添っていくような支援は、必ず大学全体の研究力の向上につながると信じています。
研究結果がひいては治療や予防の礎となり、様々な症状や疾患で苦しんでおられる患者様が一人でも減ることを願っています。私自身が食物アレルギーを持っており、アナフィラキシーの怖さ・苦しさも知っているので、患者様の力になりたいという想いがあります。
女性が働きやすい環境というのは、全ての教職員にとって働きやすい職場であると考えます。本事業を通じて、法人全体の働きやすさや研究力が向上し、患者様にもより一層喜んでいただけるようになればと思います。
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動物をもっと身近にできる社会のために
日本獣医生命科学大学
獣医学部獣医学科
野生動物学研究室講師 田中 亜紀 氏
日ごろ、動物虐待や災害時の動物の扱いなどをテーマに研究しています。米国に留学して研究生活を送りましたが、子ども育てながら研究するのは普通のことでした。日本ではまだ、子どもが生まれたらキャリアをあきらめるという傾向が強いかもしれませんが、向こうでは子どもがキャリアをストップする理由には全くならないと感じました。
米国での研究生活では、男女を意識することは全くありませんでした。上司は男性でしたが、子どもの学校が終わる15時半ごろになるとエレベーターで一緒になって、お互いに子どもを迎えに行く感じでしたね。
研究に集中できる時間が増えた
帰国後、日本では研究者が事務作業をしなければならないことが多くて驚きました。私も育児をしながらなので、大学に居られる時間が短い。大学に居る時間で研究したいにもかかわらず事務作業が非常に多かったので、支援員制度はとても助かっています。
支援員の方には9時半~15時ごろで、週に20時間の枠で来ていただいています。研究分野柄、視察など学外施設への出張が多いので、行くたびに領収書がたまり、帰るといつも事務作業に追われていました。今は支援員の方にやっていただいているので、とても助かっています。研究に集中できる時間が増えましたし、学生とのやり取りも増やすことができました。
一度は世界を見てほしい、そして育児があってもあきらめないで
日ごろ、動物虐待や災害時の動物の扱いについて関わっていますが、日本では動物を飼うことや家庭で受け入れることが、まだとても特別なことになっています。米国では、動物を飼うことはごく普通のこと。動物が社会にいることは普通でした。日本では、例えば災害時に避難所にペットを連れて行こうとすると問題になってしまいがちです。アレルギーの方もいるので、ある程度の区分けは必要ですが、もっと動物が社会の一員になっていれば、避難所に連れて行っても排除されることにはならないと思うのです。
研究留学は、やはり行って良かったです。日本にはない獣医学や、日本にはない研究分野がたくさんありました。学生にも言うのですが、一度は世界を見たほうがいい。やりたいことを制限するのではなく、今一歩踏み出してみるだけで、見えなかった選択肢がたくさんあることに気付けるので、まずは見てから選んでみるといいと思います。
また、結婚や出産をキャリアをあきらめる理由にしなくていいと申し上げています。私の姿を見て、育児があっても続けられると思ってもらえるといいですね。
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保育支援制度で夫婦で仕事との両立が可能に
日本医科大学付属病院
消化器外科助教・医員 川島 万平 氏
私は肝胆膵外科を専門としており、他大学の皮膚科に所属してフルタイム勤務する妻との間に幼稚園に通う4歳の子どもがいます。一流の外科医、夫、そして父親になるべく日々奮闘しています。
当初は夫婦で平等に家事・育児をこなして仕事との両立を目指そう!と息巻いておりましたが、実際は私の帰宅が遅くなってしまい、妻への負担が大きくなっているのが実情です。妻には申し訳ないと常々思っており、家庭内の空気も不穏になりがちに―。何とか現状を打開できないかと考え、付属病院への転属を機に保育支援制度に申し込みました。主に子どもの幼稚園へのお迎えから、両親の帰宅までのシッターをお願いしています。
お陰で心に余裕を持って仕事ができるようになり、夫婦ともに仕事との両立が何とかできるようになりました。家庭にも平和が訪れた気がします。この形が正解なのかはわかりませんが、少なくとも保育支援制度がなければ仕事をセーブすることも考えなければならなかったでしょう。子どもを持つと、仕事と子育ての折り合いの付け方に悩まれる方も多いと思います。保育支援制度という選択肢があること知っていただき、高い志を持ちながら意に反してキャリアを中断してしまう人が一人でも少なくなることを願っています。
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パートナーの職場のためにもなる
社会全体でのダイバーシティ推進を日本獣医生命科学大学
獣医学部 獣医衛生学研究室准教授 落合 和彦 氏
日本獣医生命科学大学(以下、日獣大)で、ダイバーシティ推進委員会の副委員長を拝命しています。妻は私と同じく獣医師で農林水産省に勤務、小学4年生の長男と小学1年生の長女の4人家族です。妻もフルタイム勤務のため、子どもたちが急に熱を出したりしたときなどは、比較的時間に自由の利く私のほうが対応する場面が多いです。
ダイバーシティ推進委員として思うことは、真のダイバーシティ推進は「自分の職場内にとどまらず、パートナーとその職場にも波及するもの」でなくてはならないということです。
自分の職場で、子育てや介護に携わる同僚を助けることはもちろん大切です。しかしその結果、自分の家庭に充てる時間が減り、配偶者が思うように働けないようでは、社会全体のダイバーシティ推進は実現できません。私たちが学生の頃の大学教員といえば、「家庭を顧みず教育・研究に没頭し、配偶者は家で専業主婦」というスタイルが主流でした。しかし、令和の時代にそれは通用しません。父親も家事・育児を母親と同等にこなせなければ、家庭にストレスが蓄積していきます。
周りを見渡すと、家事・育児に積極的に参加している同年代の男性教員は、教育や研究でもしっかり成果を上げている方が多いように思えます。常に突発的な事案の発生への危機感を持ち、「明日も今日と同じように仕事ができるとは限らない」という気持ちで仕事に取り組んでいるので、当然能率は上がります。トラブルが無ければ、自分に課したノルマは時間内に余裕をもって終わらせることができ、余暇を子供と過ごす時間に充てたり、研究目標への更なるチャレンジに繋げたりすることができます。その結果、心にゆとりが生まれ、同僚を手助けすることもできます。これからは特に、若い教員が研究を能率的に進められるような環境づくりには力を入れたいと思っています。
最近嬉しかったのは、勤労感謝の日に長男が「お父さん、いつもおいしいごはんをありがとう」というカードをくれたことです。家庭で料理番を拝命し、ほぼ毎食ご飯を提供している父親としては感無量でした。それでも子どもは結局母親に懐いているので、今後は家庭での地位向上を目指していきたいところです。このような私ですが、後に続く皆さんにとって何らかの形でロールモデルになれば良いなと思っています。
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研究支援員の派遣で効率アップ、新たな視点の提供も
日本医科大学
生化学・分子生物学(分子遺伝学)教室助教 笠原 優子 氏
私は、筋ジストロフィーでの細胞移植手術に向けた基幹研究をしています。幹細胞を用いて筋ジストロフィーの炎症を抑える新しい治療法です。研究者支援を受けさせていただいて、研究をサポートしてくれる支援員を派遣していただいています。
治療研究をしているのであれこれやってはみたいものの手が足りないので、せっかくの機会でもありますし、応募しました。実験が大変な時に手伝っていただけるよう、週2日フルタイムで来ていただいています。
一人でやっていると時間が限られて、夕方近くに時間的な制約が来てしまいますが、2人いると手が2倍になり、今まであきらめていたことを実現できるようになりました。協力していただけるので、仕事の効率も良くなりましたね。自分一人では気づけなかったことに対して、新しい視点を提案してもらったりするのも、とでも心強いです。
現在、小学生2人の子育て中です。家に帰ると研究から離れて、頭を切り替えて、けじめをつけないといけません。効率的に過ごすことも求められます。研究は研究、子育ては子育て。そのどちらも充実させたい。研究についてはサポート研究員を派遣していただいているおかげで、有意義な研究ができています。さらに、そのおかげで家庭では子育てに集中できるので、非常に助けていただいています。
個人的には治療研究を進めたいので、患者さんの治療に少しでも近づけるようにするのが夢です。社会に今何が求められているのかを見極めて、それを実現できるような研究者になることを目指しています。貴重な機会をいただいて良い研究環境を作っていただいているので、社会の役に立つ研究をしなければならないと思っている。
出産・育児の中でどうしてもあきらめがちなことがあると思いますが、研究に関してはあきらめないことが大切です。体力も時間も限られるので、効率的に進めないといけません。でも、子育てで大変なのは一時期です。だから負けないで、と後輩の皆さんにはいつも伝えているところです。
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医師と研究者を両立しながら続けたい
日本医科大学付属病院
女性診療科・産科助教・医員 市川 智子 氏
私は産婦人科医で、周産期と生殖医療を専門にしています。周産期はお産のお手伝い、分娩や帝王切開、妊婦検診、あるいは流産してしまった場合はその手術や心のケアです。生殖医療は不妊症や不育症の方をメインに行っており、特に体外受精では採卵や移植や子宮鏡もやっています。
研究としては、大学院で流産の研究をしたので、現在は子宮筋層の血流を超音波で評価させていただいています。血流を超音波で評価する手法があまり定着していないため、特定の超音波を使って、不育症で妊娠初期の方の子宮筋層血流を評価しています。血流の良し悪しと流産との関係を評価しています。
育児サポートのおかげで精神的な安心感
子どもは5歳と9歳です。休校期間中は、上の子どもはお弁当を持って学童保育に行っています。朝は保育園に送ってから出勤し、18時15分までに迎えに行かないといけないので、それまでに急いで仕事を終わらせて迎えに行きます。その後は夕食や上の子の勉強のサポートをして、寝る時間は23時頃です。
そのような生活の中で、私は毎週1回、同じシッターさんに自宅に来ていただく育児サポートを利用させてもらっています。食事作りから掃除、子どもの習い事の送りもやってもらっています。そのおかげで私自身がやらずに済むことが増えて、精神的にも休める安心感があるので、とても助かっています。もっと多くの皆さんが使えるといいと思います。
産婦人科医としての喜び
産婦人科は他の科の中で唯一、手術中に「おめでとうございます」と言える診療科です。もちろん悲しいこともありますが、概して喜びを与えられるのでとても素晴らしいと思っています。子供達も医者という職業に興味を持ち始めています。医者は常に勉強して新しい知識を入れて、ダイレクトに患者さんに活かしていくという職業ですので、勉強への意識は常に持ってもらって、精神的な部分は一緒にいる時間の中で育んでいけたらと思っているところです。
研修医制度が変わって、産婦人科医の激務ぶりが垣間見えてしまうことで敬遠してしまう人が増えているようです。もちろん生活の質も大切ですが、それだけを考えてしまうと、初めは良くても、時間がたつにつれて本人の意思が燃え尽きてしまって、医師自体を続けるのが困難になってしまいます。まずは、自分のやりたいことを優先にして邁進すれば、他の事は後から付いてくると思います。
研究のほうも続けたいですね。医師として色々な形がありますが、大学院で研究しながら新しいことが分かる喜びも経験したので、できるだけ続けたいです。後輩にも同じような経験をしてもらいたいので、自分も指導できる立場になりたいと思います。