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『日々是好日 ~女性研究者として生きる~』Part2
日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 食品科学科 農産食品学
教授 奈良井朝子 氏
Newsletterのコーナー『日々是好日 ~女性研究者として生きる~』は、日本医科大学、日本獣医生命科学大学の女性研究者にお話を伺い、研究やキャリア、ライフイベント、リーダーとしての役割など、等身大の想いや葛藤をご紹介しています。
- 今回は、日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 食品科学科 農産食品学の奈良井朝子教授にお話をうかがいました。
- 構成:木村麻紀/ジャーナリスト
- 聞き手:米本崇子/日本医科大学総合医療・健康科学 准教授(教育担当)、One Healthニュースレター編集委員
- 2025年10月16日インタビュー
―大学卒業から現在に至るキャリアについて教えて下さい。
奈良井:東京大学農学部農芸化学科を卒業し、同研究室で博士課程まで進学しました。そこでは、腸管上皮細胞による栄養素吸収の制御機構について研究していましたが、もう少し食品そのものについて学ぶ機会があれば良いなと感じていた頃、日本獣医畜産大学(当時)で助手の公募があり、複数の先生方から同時にお声がけをいただきました。研究内容が植物性食品の酵素の働きを調べるという点で興味深く、さらに次世代育成ということで教育の分野なら自分も関わりやすいかもしれないと思い、就職を決めました。以来、ずっと本学で研究と教育に携わっています。途中で上司が変わり、緑茶の生産が盛んな静岡県でずっとお茶のカテキンの研究をされていた中山勉先生(静岡県立大学)になりました。私はその頃はポリフェノール研究の専門ではありませんでしたが、以前から興味を持っていた分野でしたので、その大家である先生がいらっしゃるという、すごいご縁に恵まれました。そのおかげで茶カテキンの研究にも取り組むようになり、今では研究の大きな柱となっています。
―同じところでずっとお仕事をされているので、ライフイベントの時も受け入れられやすい環境でしたか?
奈良井:そうですね、受け入れてもらうために、私自身もいろいろ努力もしました。たとえば、学科の入試広報の仕事を長くやっているのですが、前にある日突然、ホームページを作りなさいといわれ、ソフトを渡されただけ、その使い方もわからないまま試行錯誤しながら作ったこともありました。そのうち業者が作るようになりましたが、最初のうちは今のSNSのようなものを自分でソフトを使って更新していました。
―それは、お子さんが小さい時に在宅でやっていたのですか。
奈良井:いえ、まだいなかった時です。頼まれた仕事やこれは必要だと思う仕事はなるべくやろうと思ってやってきました。妊娠・出産というライフイベントを職場で受け入れてもらえたのは、それまで必死にやっているところを、上司の先生が見て下さっていたお陰かなと思います。上司にもお子さんが3人いらしたので、やはり子どもっていいよね、というスタンスで接してくださっていましたので、甘えるところは甘えながらも、甘えるばかりではいけないと思ってやってきました。
私は、家庭はもちろん大切ですが、仕事もとても大事だと思っています。研究を通じて「分からないことが分かる」喜びや学生の成長に接する楽しさに触れていたいですし、家庭を優先して仕事を切るといった発想はありませんでした。夫の協力と近くに住んでいた義両親のサポートもあり、また、実習中は遠方の両親に来てもらうなどして、研究と家庭を両立することができました。
子どもたちにとっても、忙しさでキリキリしている親だけと接するよりも、少し余裕のある大人、世代の違う大人と関わりながら育っていったのが良かったのかな、と今子どもたちを見ていて思います。―子育て前後で、学生指導の仕方で何か変わったことはありますか。
奈良井:子どもができるとどうしても時間に限りが出てくるので、この限られた時間の中でどう効率的に学生の指導をしたり、自分が実験をする時間を確保するか、という時間配分は、昔よりも本当に力がついたと思います。
また学生が、「子育てをしながら働く女性教員」の姿を見ることによって、将来どの職場に行っても、女性が子育てしながら仕事をするのが当たり前だと考える環境づくりに繋がるよう願っています。―日獣大の女性比率の現状はいかがですか。
奈良井: 本学にもダイバーシティー推進委員会があり、女性教員の割合を増やす取り組みが続いています。食品科学科では女性教員が3分の1を占め、学生も6割が女性ですので、比較的女性比率の高い学科です。
公募の際に女性を優先する方針に対しても、あまり否定的な話は聞きません。世の中は男女半々ですので、教員職においてもそのようになって、お互いの得意・不得意を補い合いながら協力できる関係をつくるのが理想的です。
一方で、畜産や獣医の分野で博士号をもつ女性はまだ少なく、公募しても応募そのものがないので、なかなか女性教員が増えません。こうした分野では、数年で何十パーセントまで増やしましょう、ということではなく、もう少し時間をかけて、女性がその分野にいることが自然となるような環境づくりから進めていく必要があると思います。
―奈良井先生のように、女性が研究者として継続的に活躍するために必要なことは何でしょうか。
奈良井:やはり、職場できちんと協力を得られることではないでしょうか。職場で安心して席を外す、仕事に穴を開けてもバックアップ体制がきちんとあるということです。
例えば、産休を取って実習に穴を開けてしまうと、周りの先生に負担をかけてしまい、戻って来るのも気持ち的にすごく大変ですよね。「皆さん、ご迷惑かけてごめんなさい」って申し訳なく感じて。でも本当はそうではなくて、みんなで寛容に「頑張って産んでおいで」と送り出し、産んできたら「おめでとう!」って迎え入れことができる余裕が職場にあってほしいと思います。
教育分野であれば、専門科目では難しいかもしれませんが、科目によっては複数の教員でスライドを共有し、オムニバス形式で授業を担当できるようなバックアップ体制は、出産だけでなく急病などの時に備えて作っておいたほうが良いと思います。
研究はさすがになかなか代わりがいないので、ここをどうするかの答えはまだありません。共同研究ならばバックアップ体制が取れますが、自分だけの研究は少し止まってしまいます。自分の研究が少しの間止まってしまうかもしれないことを、どう捉えるかではないでしょうか。人によって目指すところは異なりますが、自分の場合は、期間限定で研究から離れることはしかたない・後悔しない、と考えて産休と育休の間は子育てに専念しました。大変だったことは結構忘れてしまっていますが、思いどおりにならない数々の「子育てあるある」を経験したことで気持ちが強くも柔軟にもなり、仕事に良い影響を与えていると思います。一方で、大学で研究をするということは学生の教育とセットです。学科、あるいは大学院専攻の教育全体で教育が成り立つと良いので、周りの理解と協力が必要な場面に遭遇することがあると想定して、学生ともども色々な教員とコミュニケーションを取ることは大事かなと思います。
―最後に、奈良井先生のように、子育てもしながら好きな研究を続けていける女性研究者が増えるための支援のあり方についてお考えをお聞かせください。

奈良井:個々人で状況が全く異なりますし、支援を受けたからと言ってすぐに研究業績が出るものではありません。成果だけを求められると、逆に「もうそういう支援ならいりません」と尻込みしてしまうこともあるでしょう。欲しい支援は個々人で異なりますので、すごく難しいことではありますが、複数の支援策を用意して、「何が欲しいですか」と個々に尋ねる必要があると思います。
もし欲しいのが研究費ならば、ある程度それに見合った成果を出すこととセットになるでしょう。研究支援員がいれば成果が出せる、というなら、支援員を一生懸命活用してもらう。
研究業績だけでは測れないところも含めて支援してもらいたいと思っている人もいます。以前、ベビーシッター派遣制度があるとご紹介した際、その方は「他人に子どもを任せることに抵抗がある」、とおっしゃっていました。私もどちらかと言うと同じ感じ方だったので、祖父母にお願いしましたが、祖父母を頼れない方には「それならどうする?」と相談できる窓口のようなものが必要かもしれません。
その人の考え方を変えようとするのではなくて、「何が心配なの?」と聞いて寄り添う。大学だけではなく、地域にもさまざまな保育制度や子育て支援制度があるので、一緒に調べて解決策を探す、そういったこともできる窓口があると良いかもしれません。
安心して研究や教育を続けられる環境づくりを進めていくことがなにより大切だと思います。