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留学LOG

2025年12月5日

ダイバーシティー事業の広報誌Newsletterの新コーナーとして、「留学LOG」をスタートすることとなりました。
この企画は、ダイバーシティ事業の海外研修助成制度を活用して留学された方の経験を通して研究者の皆さまが留学をより身近に感じられるよう、準備や生活の工夫、挑戦や学びなどリアルな声をお届けするシリーズです。

  • 第1回目は、ロンドンのUniversity college London(UCL)へ約1ヶ月の海外研修に行った日本医科大学病理学(統御機構・腫瘍学)の堂本裕加子准教授(教育担当)に留学体験記を寄稿していただきました。
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  • Vol.1 『人生の糧となった1カ月』 
  • 堂本裕加子先生 日本医科大学病理学(統御機構・腫瘍学)准教授(教育担当)

留学期間:2025年4月26日~6月1日
留学先:英国ロイヤルフリーNHSトラスト国立アミロイドーシスセンター

 

 


 

人生の糧となった1カ月

 

冒頭からトラブルが
出発日は2025年4月末、雑務に追われ寝不足気味ではありましたが、日常業務からの解放感と、初めて訪れるイギリスへの期待と不安に胸を膨らませていました。

搭乗ゲートへ着くと、アナウンスで自分の名前が呼ばれていることに気づきました。2025年から始まったETA(電子渡航認証)をすっかり忘れていたのです。とにかく申請手続きだけ済ませるように言われましたが、なぜか手持ちのクレジットカードがすべて使用できず、自宅にあるカードの画像を家族から送ってもらうなどして 、何とか申請を完了。搭乗ゲートが閉まる前に飛行機に乗り込むことができました。

申請が受理されないとイギリスに入国できないので、その場合はそのまま日本へお戻りくださいと言われていましたが、ヒースロー空港では拍子抜けするほどあっさり入国できて安堵しました。羽田空港の搭乗口で飛行機に乗れないかもしれないという焦りと不安でスマホを操作した、この時ほど手が震えたことはありませんでした。

 

受け入れ先の余裕がなく、歯がゆい状況に
留学先はUCL内のNational Amyloidosis Centre(NAC)で、アミロイドーシスに関する診断、治療、研究を行う、世界で2番目に大きな施設です。国際学会などで面識のある先生方でもあったため、研修を快く承諾いただくことができました。

 

アミロイドーシスは、アミロイド前駆蛋白質がアミロイド線維を形成して臓器に沈着することで臓器障害をきたす疾患で、40種類以上の病型があります。頻度の高い病型としてトランスサイレチン型アミロイドーシスと軽鎖型アミロイドーシスがあり、いずれも治療法があるため、病型診断が重要です。

私は、付属病院での病理診断とは別に「アミロイドーシスに関する調査研究」斑のメンバーとして、アミロイドーシス病型診断コンサルテーションを受け、年300件ほど病型診断を行っています。教室スタッフや大学院生の協力を得ながら、年300件でもなかなか大変ですので、ビックラボがどのように診断・治療し、研究を行っているのか、どのように運営資金を得ているのかなど、大変興味がありました。

 

NACはRoyal Free Hospital内にあり、アミロイドーシス専門クリニックと研究所が一体化したような部門です。診断に関してはHistologyとGeneticsがあり、Histologyのトップで検査技師のJanetさんと、研究所のプロテオームチームリーダーのDianaさんがホストでした。

Janetさんとは免疫組織化学について、Dianaさんとはプロテオーム解析について、病型診断に関する情報交換と共同研究を存分にできると思っていたのですが、研修の承諾を得た半年前とは状況が一変していました。Janetさんの右腕が産休・育休に入ったものの、新しいスタッフが補充されておらず、Dianaさんもまもなく産休に入るというタイミングで業務が滞っていて、私の相手をする余裕は全くない状況でした。診断部門は精度管理が厳しく、私が現地で手を動かすには膨大な書類が必要とのことで、とてもお願いできる状況ではありません。せめてプロテオームデータ解析でもさせていただけないかと思いましたが、Dianaさんがデータを抽出してくれないことには何もできません。

Janetさんの横で見学していると「ロンドンがこんなに晴れていることは珍しいし、ロンドンには観光名所が沢山あるの。正直に言ってちょうだい。つまらないでしょ!」としつこく言われる始末でした。

 

年に一度の業務報告会への参加で大きな学び
想像した研修とは全く違い、途方に暮れました。しかし、幸か不幸か渡航直前に自分の論文のリバイスが戻ってきたため、夜や週末はデータ解析や論文の執筆、研究費の申請書や倫理申請などができました。現地での合同ミーティングで共同研究を提案するために自施設のプロテオームデータを見直し、解析するなど、日本ではなかなか着手できなかったことに時間を使うこともできました。研修が半分を過ぎた頃、研究所に時間の多少余裕のある研究者がいることがわかり、基礎実験を見学することができました。

 

滞在中にAuditという年に一度の業務報告会にも参加することができ、NAC内の各部署の状況を知ることができました。興味深かったことの一つは、NAC内にシステムエンジニア(SE)チームがあったことです。NACでは業種ごとにアクセスできるカルテ情報が細かく制限されていて、ログインする度に、個人の携帯に送られてくるアクセス番号を入力するなど、セキュリティがかかっています。研究者側からも紹介状など最低限の患者情報が得られる一方で、医師はカルテからプロテオームデータや遺伝子データに直接アクセスすることができます。SEチームは日々、各科の細かい要望やトラブルシューティングに対応しながらカルテを改善して行っているようでした。

 

このシステムのおかげもあってか、毎週行われる多業種カンファレンスでは、モニターに患者カルテ画面が映され、主治医から簡単な病歴、放射線科医から画像の説明があり、教授がその場で報告書を書き、紹介元へ送信し、追加検査オーダーを入れるなど、全員で誤字を指摘しあいながら1時間ほどで10名以上の症例をどんどん診断していました。カルテシステムがNACに特化していることも要因ですが、こうしたスピード感は日本も見習うと良いのではないかと思いました。

 

NACの研究者と同志社大学の大学院生(右:堂本先生)

本大学の大学院生もNACを訪問

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の滞在中に数日、同志社大学から大学院生を託されたのですが、医師ではないためNAC内の見学が制限されてしまいました。そこで、ロンドンにいる日本人研究者に会いに行こうと、芋づる式に日本人の知り合いを紹介してもらい、沢山のラボを訪問しました。ロンドンでラボを立ち上げた若手研究者、長年ロンドンでラボを構える先生などから、イギリスの大学教育や研究資金などについて予想外の発見や学びがありました。

 

ロンドンの中心地を走るロンドンバス

ロンドン滞在中はほぼ晴天で、朝4時には日が昇り、夜10時近くまで明るく、とても気持ちのいい日々でした。毎日、行きは赤いロンドンバスに乗り、帰りは公園を通り抜けて1時間ほどかけて歩いて帰りました。物価が高いのには閉口しましたが、Marks & Spencerでおいしいパンやお惣菜を入手できました。週末にはロンドンから日帰りで行けるあらゆる観光地に毎週末出かけました。オックスフォード、ケンブリッジ、ウィンザー城など、一番気に入ったのはブライトンのセブンシスターズでした。今思い返しても、ロンドンで生活していた自分がうらやましいです。

 

 

地下鉄にあるゴロの良いキャッチフレーズ

人生の糧となった1カ月余の日々
異国の地での生活は、日々の小さな達成感に心躍る日々でした。現地の電子レンジでうまくお米が炊けたこと、Amazon.ukのアカウントを作り、オペラグラスを購入し、郵便局で受け取り、レミゼラブルのミュージカルを見に行ったことなど、日本にいたら当たり前のことも本当に有難く嬉しい経験でした。

 

 

かつて、2014年にもボストンMGHに1か月留学をさせていただいたことがありました。当時は英語での日常生活もままならず、日本人のいるラボにばかり入り浸り、よく分からないまま帰国しましたが、この際に見せていただいたのが、アミロイドーシスの心筋生検でした。当時は病型診断もされておらず、アミロイドはMasson Trichrome染色で線維化と見分けられる、ということしか理解できなかったのですが、帰国後に始めたアミロイドーシスに関する研究が後の私のライフワークとなりました。

 

今回の研修で私が何を得られ、どう成長できたのか、まだはっきりと認識するまでには至っていませんが 、いずれ人生の糧となるだろうということは確信できます。少なくとも、先日研究室の大学院生が NACを訪問できたことは、海外研修の一つの成果かもしれません。

 

若手とは言い難く、働き手である私を快く送り出し、迅速当番 を一手に引き受けてくださった大橋隆治教授、診断標本を分担してくださった病理診断に携わる先生方、私のいない間コンサルテーション業務をしてくれた大学院生や教室スタッフの皆様、そして、しあわせキャリア支援センターのスタッフの皆様に厚くお礼を申し上げます。

 


 

  • 視聴は学内専用となります。
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